2017年07月09日

風とともに


「風立ちぬ」といえば、「堀辰雄」です。軽井沢ですから。追分宿の堀辰夫文学記念館は歩いてすぐです。

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(ときどき散歩で立ち寄る堀辰雄文学記念館)

タイトルの「風立ちぬ」は、フランスの作家ポール・ヴァレリーの詩「海辺の墓場」にある一節、Le vent se lève, il faut tenter de vivre. (「風立ちぬ、いざ生きめやも」と堀辰雄自身が和訳)から取ったもの。直訳は「風が吹いてきた。生きるべく努力しなければならない」という意味とのこと。

さらに宮崎駿がアニメ化しました。アニメ「風立ちぬ」の英語タイトルは、The Wind Rises. 「立つ」は日本語でも文章語ではありますが「風などが起こる」の意味があり、英語もフランス語も、同じく「立つ」という動詞を使っています。英語は rise。フランス語は lever。このあたり、「風が出る」ことを表す感覚は共通なのでしょうか。おもしろいですね。

ちなみに、アニメタイトルは The Wind Rises. ですが、ポール・ヴァレリーの詩そのものの英語訳は、The wind is rising. となっているものもあります。

さて、タイトルとして「風・・・ぬ」で有名なのは、「風と共に去りぬ」です。マーガレット・ミッチェルの小説で、映画化もされました。アメリカ映画を代表する不朽の名作です。

この小説で何が風と共に去ったかというと、「文明」です。映画の冒頭で A Civilization gone with the wind... と出てきます。南北戦争で南部の貴族的社会が潰れてしまったという意味のようです。civilization に不定冠詞の a が付いている(普通は the を使うことが多い)ということは、アメリカ南部の文明は普遍的文明ではなく、地域的なものだ、ということを表しているのですね。

ところで、この映画の最後のセリフ。とても有名です。すべてを失い、最愛のレット・バトラーにも去られ絶望したスカーレットが、故郷のタラに帰って考えようという結論に達した時の言葉、Tomorrow is another day. 字幕は「明日に望みを託して」。

一介の無名な翻訳者が確立されている字幕に異議を唱えるのもおこがましいのですが、この訳はやはり「意訳しすぎ」、「考えすぎ」ではないでしょうか。

日本人はどちらかといえば感傷的で情緒的、ドラマでも感動を盛り上げるのが大好き。不思議なことに、「言葉少なめ」の日本文化なのに、「おもてなし」心理のせいなのか、ドラマなどではとことん状況、経緯、結末を説明し尽くします。この映画でもスカーレットの苦労を自分のもののように感じ、日本人の好きな「起承転結」で「結」の言葉、「絶望から立ち上がって、明日に希望を見いだそうという優等生的決意」を、スカーレットから聞きたかったのでしょう。

だからその気持ちを「忖度」して、映画関係者が「明日に望みを託して」としたのではないでしょうか。

確かに、気持ちとしてはそういうことでしょう。でも英語では「明日に望みを託す」と言っていない。でも気持ちはそうなんだから、「明日に望み」でもいいじゃないか、という人は多いと思います。

でもそれでは、「君と楽しい家庭を作りたい」「君と毎朝おいしいコーヒーを一緒に飲みたい」「僕とずっと一緒にいてくれるかな」というセリフをその真意を考慮してすべて、Will you marry me? と訳してしまう、ようなものですよ。

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(「風と共に去りぬ」の最後のシーン)

Tomorrow is another day. は、「明日は明日の風が吹く」「明日になればなんとかなる」「明日がある」というような意味でしょう。この表現は、「明日に望みを託す」というような「前向きな期待」ではなく、「後ろ向きの楽観」だと思います。

スカーレットはけっこうタフガール。情熱的だけれどサバサバした性格。切替も早い。素直になれないところもある。言ってみれば、「跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘」。そのあたりを踏まえて彼女のセリフを考える必要があると思います。

そんなスカーレットが「レットが去った。彼を取り戻したい。でも今日はもう考えられない。どうしよう」とどん底。でも「そうだ、故郷のタラがある。タラに帰って、レットを取り戻す方法を考えよう」と開き直って、「だって(After all)」と言って、「明日があるんだから(明日は今日ではない、別の日だから、明日になればなんとかなるだろう)」と、どちらかといえば楽天的な発言で終幕。こういう解釈のほうが自然ではないでしょうか。

もちろん、「映画字幕は翻訳ではない」と言われているように、映画字幕は英語だけを見て訳すものではなく、文字数制限もあり、いろいろな要素を総合的に考えて訳を作り出す創造的な職人技と理解しています。

「明日に望みを託して」は、「感傷大好き日本人視聴者」の気持ちに沿ったものかもしれないけれど、それでもやはり「忖度」しすぎたのではないかと思います。

ちなみに、小説「風と共に去りぬ」の新版では、Tomorrow is another day. を「あしたは今日とは別の日」と訳しているそうです(個人的には未確認です)。


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posted by ロンド at 19:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 英語
プロフィール
ブログネームは、ロンド。フリーの翻訳者(日英)。自宅にてiMac を駆って仕事。 2013年に東京の多摩ニュータウンから軽井沢の追分に移住。 同居人は、妻とトイプードルのリュウ。 リュウは、運動不足のロンドを散歩に連れ出すことで、健康管理に貢献。 御影用水温水路の風景に惹かれて、「軽井沢に住むなら追分」となった。