2018年03月12日

言葉の響きが世界を広げる


聞いただけで「これは悪人だ」と思わせる響きを持つ名前がある。たいていはフィクションではあるが。
 
例えば、「ハリー・ポッター」の仇敵「ヴォルデモート」。なんとも不気味な響きではないか。作者のJ・K・ローリングによるとフランス語で、vol de mort = flight of death(死の飛翔)とのこと。
 
しかし言葉の意味とは別に、作者はまず最初に気味悪い音に聞こえる名前を考えついたのだろう。mort はフランス語で「死」を意味する言葉であり、英語においても mort という音は暗いイメージがある。morgue (死体置き場)を連想させる。vol も、volcano(火山)や violence(暴力)など荒々しさを連想させるはずだ。
 
同様に、魔法学校ホグワーツの寮の名前、「スリザリン」も不気味だ。「s l」の音は英語であまり感じの良い音ではない。slave(奴隷) とか slaughter(屠殺) とか sly(あくどい)とか、ネガティブな意味の単語がある。
 
悪役で不気味な音を持つ有名人といえば、「スターウォーズ」の「ダース・ベーダー (Darth Vader)」。dark invader のような暗い怖いイメージがある。それを狙って作った名前であることは間違いない。
 
読者はこういう名前を聞いて、理由はわからないが(考えないが)聞いてすぐ「英雄」「悪役」「不気味」などのイメージを抱くのだ。フィクション、特にSFやファンタジーの楽しみ方は、こういうところにもある。
 
フィクションではなく、実際の名前も、その響きによって別世界を想像させるものがある。
 
私にとって、その一つが、「ギンヌンガガップ」。

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(宇宙のどこか)

何か想像もつかないような響き。恐ろしいような謎に満ちているような永劫に続くような。「ガ」行の濁音が多いことも、そういうイメージを生み出す要因の一つだろう。
 
確か、SF小説に出てきた言葉だと思う。大宇宙のどこかにある途方もない裂け目。そんな意味で使われたのかも知れない。実際は、北欧神話に出てくる「この世の中が生まれる前に存在した巨大な裂け目」のことらしい。ギリシャ神話では「カオス」に相当するとのこと。
 
「ギンヌンガガップ」の綴りは、Ginnungagap。もともと古代北欧語で、語源は Ginnunga が「始まり」とか「不思議な」とか諸説ある。gap は現代英語でも同じ gap で「裂け目」。
 
もう一つ、聞いただけで別世界が広がる言葉は、「アコンカグア」。

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(アコンカグア)

これは南米アンデス山脈の最高峰。標高7000メートル近い高さがある。最初にどこで聞いたか覚えていないが、アニメかもしれない。船(戦艦?宇宙船?)の名前で使われたような気がする。実際にはそれが山の名前だとは知らなかったが、聞いただけで、原初的で、雄大な雰囲気があった。
 
「カグア」が「かぐや姫」の「かぐや」と音が似ていることもあるのかもしれない。女性、しかも卑弥呼のような首長的な女性のイメージがある。女性的で優しい響きがある「ア」の音が多いせいもある。
 
これらの単語は聞いただけで、「センス・オブ・ワンダー」(不思議な感覚)を感じさせてくれる。これは、SF小説でよく使われる言葉。SFらしさが感じられる作品は、「センス・オブ・ワンダー」があるという。
 
「センス・オブ・ワンダー」を感じられる作品には、小説ではフランク・ハーバート作の「デューン砂の惑星」、映画ではリドリー・スコット監督の「ブレードランナー」がある。
 
「ギンヌンガガップ」と「アコンカグア」は私にとっては、単語だけで「センス・オブ・ワンダー」を感じさせる、鮮烈な言葉である。
 
さて最後に、日本の「言葉」を挙げないわけにはいかない。
 
個人的に「センス・オブ・ワンダー」を感じる日本の言葉は、日本神話の中心にいる太陽神「アマテラス」である。

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(太陽)

「アマ(天)」「テラス(照らす)」もおそらく二千年も前から使われていた日本語であろう。古代の息吹がいまだもって感じられる単語だ。「ア」の音も多く、個々の言葉の意味が持つイメージも相まって、大きく抱擁してくれるような崇高さを醸し出している。
 
「アマテラス」は魏志倭人伝で紹介された「倭」の「女王」である「卑弥呼」が神格化されたものであろう。「卑弥呼」は「ひみこ」と読まれているが、実際には「日御子(ひのみこ)」か「姫御子(みめみこ)」だったのだろう、と言われている。
 
「アマテラス」の音を聞いただけで、神話上でも歴史上でも日本史に燦然と輝くヒロインの太陽に向かって祈る姿が浮かんでくる。それほど強烈なイメージを持つ名前であり、音である。


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posted by ロンド at 16:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 言語
プロフィール
ブログネームは、ロンド。フリーの翻訳者(日英)。自宅にてiMac を駆って仕事。 2013年に東京の多摩ニュータウンから軽井沢の追分に移住。 同居人は、妻とトイプードルのリュウ。 リュウは、運動不足のロンドを散歩に連れ出すことで、健康管理に貢献。 御影用水温水路の風景に惹かれて、「軽井沢に住むなら追分」となった。