2018年12月21日

Kaiju の世界

怪獣はもう日本だけのものではない。Kaiju は世界の共通語になり、「ゴジラ」は Godzilla になってしまった。怪獣たちにとって日本は狭すぎたのだろう。それに彼らはユニバーサルな価値を持っていたから、世界で活躍するのは当然の成り行きであった。

大げさな、と思うなかれ。Kaiju という日本語は、2013年の大ヒット米SF映画「パシフィック・リム」で使われている。2019年公開予定のハリウッド製ゴジラ新作映画「Godzilla: King of the Monsters」では、ゴジラだけでなく、ラドンもモスラもキングギドラも出てくる。

日本ではゴジラに並ぶ人気怪獣「ガメラ」も、けっこう外国のファンが多いようで、数年後にはハリウッドで実写化されるかもしれない。(実は私はガメラファン。平成3部作、特に最後の「ガメラ3」におけるガメラは神がかり的機能美だ。)

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(初代ゴジラ。ゴジラの造形は類い希なデザイン力によるものだと思う。アメリカも含め世界の怪獣は、爬虫類か恐竜の姿を似せたものでしかないが、ゴジラの造形はそれとはまったく異なっている、と私は思う。)(写真:Wikimedia Commons)

なぜ日本には怪獣が多いのか。私は怪獣ファンでもあったので、英語の仕事に携わるようになると、「異文化コミュニケーション」の重要性を意識するようになり、その「なぜ」をよく考えるようになった。

(1) 多神教(アニミズム)の宗教的要素

天地創造の神は日本にはいないので、「生物」を、「神や悪魔にでもなる巨大な怪物」を、自由に創作できたのだろう。

(2) 世界大戦を闘った軍事大国

戦艦大和のような巨大人工物を作ることができたわけだから、「巨大で強大」なものを創造(想像)するという実体験はあった。それに戦争による日本全土での爆撃や破壊を目の当たりにしたことも、無意識のうちに「巨大生物が街を破壊する」映像の創作につながったのかもしれない。

(3) 人間以外の生き物に対する日本独自の文化的考え方。

日本の豊かな自然、それに天変地異の多さもあり、「妖怪」や「魔物」などの「もののけ」は、昔から書物に現れていた。平安時代に伝来した妖怪物の元祖といえる中国の地理書「山海経」をヒントに日本人がいろいろ化け物を考えたとも言える。そして日本はアニミズムの世界であり、妖怪の進化と活躍はさらに広がった。

また動物や人造物を擬人化する文化的素地もあった。11世紀ごろ作成されたと言われる「擬人化された動物が描かれた」絵巻物「鳥獣戯画」(国宝)は、マンガの「祖」とも言われている。私も「鳥獣戯画」を何十年も前に知り、それ以来この絵巻物から今の日本の「キャラ王国」「怪獣王国」への連続した文化的流れを感じていた。

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(「鳥獣戯画」ウサギとカエルの相撲。これを見ているともうマンガだね。)(写真:Wikimedia Commons)

「もののけ」を擬人化する文化、妖怪を身近に感じる文化、それが近代になってアメリカから輸入した「娯楽文化」と相まって、「怪獣」を作り出したのだろう。

(4) 歴史的復活体験

もう一つ、非常に大きな要素がある。日本の怪獣、特にゴジラは、その誕生は「反核思想」であった。何しろ水爆実験で蘇った太古の恐竜がゴジラなのだ。

実はゴジラ誕生に先立つ1年前の1953年、「The Beast from 20,000 Fathoms」という米国映画で、核実験により蘇った古代恐竜(邦題「原子怪獣現る」)が「怪獣」として初登場する。これにヒントを得たとは思うが、この映画がなくても、ゴジラは誕生していただろう。

ゴジラは水爆実験で生まれた怪獣。それが東京を破壊する。しかし最後は撃退する。「反核」の名を借りて、敗戦のトラウマ解消を狙ったのでは、と私は思っている。

さて、そんなゴジラが、核爆弾を落とした張本人のアメリカで映画化されるようになったのは、どうしてか。

それは、日本は「太平洋戦争の被害者としての部分、原爆の被災者としての部分」だけを強調することを選ばなかったからだ。

日本人がつらい体験をしたのは、今次大戦だけではない。他民族の侵略こそほとんど受けなかったものの、地震や噴火などの自然災害では昔から大きな被害を被ってきた。それは誰かを責められるものではない。ただ粛々と受け止め、そこから生き続け、這い上がるだけである。

戦後の「怪獣」創作においても、戦争の悲惨さ、苦しみ、つらさ、悲しみをすべて包み込んだうえで、生きていくために必要な娯楽としての要素を取り入れ、「怪獣」を世界的な価値にまで高めることに成功したのだ。

ゴジラも、ガメラも、(怪獣ではないが「ウルトラマン」も「アトム」も「サイボーグ009」も)、なぜか哀しみを背負っていながら、懸命に生き闘う(あるいは破壊する)のは、そういう日本人の遺伝子によるものではないだろうか。

ハリウッド(米映画界)の価値、ハリウッド映画化の価値を否定する人は多いかもしれない。しかし、好き嫌いは別にして、ハリウッドは米国のご都合主義や思想を押し付けるためだけに、何億何十億ドルもの金を掻き集め、映画制作をしているのではない(一部はそうかもしれないが)。ユニバーサルな価値を見い出し、世界市場で「売れる」と思うから、映画を作って世界に売り込んでいるのだ。そしてハリウッドで映画化されたキャラクターは、世界中の人たちが見ることになる。驚異的な媒体ではないか。

モンスター始め様々なキャラクターは世界中で創作されているが、人類史上まれに見る「近代的自由主義のもとで飛躍した多文化・他民族の融合」で圧倒的新規性と創造性を示し続けているアメリカは別格とし、日本はその他の国々の追随を許さない。

ハリウッド製ではあるが、Godzilla は回を追う毎に本家日本のゴジラに似てきており、その強大さはアメリカ産怪獣「キングコング」をすでに凌駕している。

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(これは2017年米映画「キングコング: 髑髏島の巨神」のキングコング。東宝製作のゴジラ映画としては「キングコング対ゴジラ」(1962)があるが、この頃はまだ両者サイズが同じ。)(写真:Wikimedia Commons)

ハリウッドでは「Godzilla vs. Kong」(仮題)という映画を2020年に公開予定という。「Godzilla: King of the Monsters」における描写の Godzilla にキングコングが敵うわけないと思うが、コングは米国産なのでプライドもあり、巨大化させるとか何とかして対等にする魂胆なのだろう。まあ譲ってあげてもいい。ゴジラはそんな器の小さい Kaiju ではないのだから。


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posted by ロンド at 17:03| Comment(4) | TrackBack(0) | 文化

2018年12月07日

大統領の憂鬱

Make America Great Again! (MAGAと略されている)と叫ぶかの国の大統領は、日本でもあまり評判は良くない。もちろん他の国々でも当然不人気だ。発言や行動があまりに突拍子もなく、極端で、不適切だから、不評は当然かもしれない。

テレビに出てくる評論家やコメンテーターの日本人を始め、日本語が達者なアメリカ人タレントたちも、かの大統領に対しては辛口である。かの国では、ハリウッドスターの多くも、自国の大統領に批判的である。

メキシコ国境に壁を作る、中東系の人々を閉め出す、自由貿易を抑制し保護貿易政策を採る、「フェイクニュース」といってメディアを叩く、ロシア疑惑、ロシア疑惑を捜査するFBI局長を更迭する、などなど、まさか「MAGA」差したわけでもなかろうが、人道的で民主的で理性的で知能の高い「文化人」だったら眉をひそめるような行為の連続である。

私も「一般人」ではあるが、同感であった。

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(トランプ大統領。トランプ家はドイツからの移住民。もとは Trumpf という綴りで、元々の出身地は、ドイツのカールシュタットという町。その基となったトランプ家からアメリカに渡った子孫で名をなしたのが、大統領のトランプ家と国際的食品会社となったハインツ家とのこと。)

国内外で不人気ではトランプ大統領も憂鬱だろう、と思ったが、そんな様子はない。

なぜかといえば、彼は自国で少なくとも5割の国民(有権者)から支持を得ているのだ(だから大統領に選ばれたわけだ)。調べてみると、トランプ支持者は主に白人労働者だという。

大統領を支持している白人労働者にとっては、中南米からの違法・合法含めた移民が増えては困る。中国などから安い輸入品が入ってくると困る。自分たちが作ったものが売れなければ困る。中東系の住民がいなくても困らない。セクハラ、パワハラ、健康志向、人種差別、銃規制なども大切だが、それ以上に自分たちが生きていくことのほうが切実な問題、なのだろう。

大統領候補トランプ氏の主張に賛同したから白人労働者たちが支持したのか、白人労働者たちの気持ちに添おうとしてトランプ氏が方針を打ち出し、大統領に選ばれたのか、私にはわからない。

いずれにしても、白人労働者たちの状況は、大統領に辛口ないわゆる「文化人」(上流階級の人たち、高学歴高収入の人たち、映画俳優などの文芸人、国際的企業で働く優秀な人たち)には実感として理解できないのかもしれない。

白人労働者の立場は、当然日本人にもあまり理解できないだろう。私だって、メキシコ国境から越境してくる人々がアメリカに密入国して大変だ、と頭では理解しているが、その切実さはわからない。

フェイクニュースとしてトランプ大統領に叩かれているマスメディア。白人労働者たちは、マスメディアをどう思っているのか。

一般的に、大統領を支持する白人労働者たちは、「経済的苦境」ゆえに大統領を支持している、と言われていたが、別の説を唱える学者が現れた。白人労働者は、現代アメリカの多国籍文化において自分たちの「(白人としての)地位が脅かされる」ことへの不安からトランプ大統領を支持している、というのだ。そしてマスメディアはこの説を大々的に取り上げたという。

どちらの説が的を射ているのか、私にはまったくわからないが、「経済的苦境が理由ではない」と言われた白人労働者の心境は如何に。

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(アメリカの農民。資料写真)

大統領の言動だけ見ていると、首をかしげたくなるが、うわべだけで判断しては良くないのだろう。うわべだけでしか判断できなかった私の文化度は、しょせん上っ面だけのものだった。

うわべだけの判断は良くない、ということは、ひょっとしてロシア疑惑もフェイクだし、マスメディアは反大統領派で、偏向報道になっているのかもしれない。これまでのアメリカの通商方針は国の基礎を作ってきた労働者たちを冷遇しすぎていたのかもしれない。

あるいは、大統領に対する疑惑はやはりすべて事実なのかもしれない。

私には到底判断できない。となれば、どんなことも鵜呑みにしないことが、一番無難なのではないだろうか。

ということで、もとより喝采も糾弾もしないが、むやみに批判することもやめにしようと思う。彼も市民に選ばれ大統領になったのだから。

ただ、市民の支持を得ている、ということについて注意は必要だろう。太平洋戦争前、苦境にあえぐ日本の農山漁村の救済を標榜したのが軍部で、彼らの支持を得た軍部は大きな力を持ち、結局日本を大変な方向に持って行ってしまった。農民たちは「救済」を求めていたのであって、「戦争」を求めて軍を支持したわけではなかった。

国民の支持は為政者により乱用されることは多い。今でも日本始めどの国でもそういう危険性はあるのだ。

一市民の私は「どんな報道も鵜呑みにしない」だけで、自らの知性で真実を探り当てることができないのは、情けないと思うが、日々生きることで精一杯なのだ、としておきたい。

さて明日も仕事である。「表層崩壊」に関する土砂災害関連報告書の和文英訳が待っている。残念ながら、私の文化度は表層崩壊しているように思えるが・・・。


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posted by ロンド at 17:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 国際
プロフィール
ブログネームは、ロンド。 2013年に東京の多摩ニュータウンから軽井沢の追分に移住。今年還暦に。 同居人は、妻とトイプードルのリュウ。 ロンドは、フリーの翻訳者(日英)。自宅にてiMac を駆って仕事。 リュウ(13歳)は、運動不足のロンドを散歩に連れ出すことで、健康管理に貢献。 御影用水温水路の風景に惹かれて、「軽井沢に住むなら追分」となった。