このところずっと静かだったから油断していた。浅間山のことである。
先月、8月7日の夜、「22時08分頃、噴火が発生しました」という緊急メールが軽井沢町から届いた。気象庁の浅間山関連サイトで定期的に火山活動をチェックしていたが、最近は発表もなく、火山性地震も増えていたとは思わなかった。
「浅間山噴火」の速報は全国に流れ、NHKでもテロップが出た。だが、結局「小規模」だったため、報道としては沈静化した。
噴火が起きたのは曇りの夜間。噴火音もなく、軽井沢はちょうどバーベキューシーズンでもあり、屋外にいてテレビやパソコンを見ていなかった人たちは気づきもしなかったようだ。
気象庁のサイトで、浅間山の北側からウェブカメラで撮った、噴火直後の映像を見ることができた。確かにあれが晴天の昼間だったら、浅間山麓住人は、腰を抜かしたかもしれない。
(夜間の噴火だが、高感度カメラなのかはっきり噴煙が見えている。噴火の瞬間は赤熱した光も見えていた。ごくわずかな降灰は北側で観測されている。)
(気象庁鬼押監視カメラの映像より)
「予兆なしの噴火」は、専門家や私を含めた火山に関心のある人たちにとってみれば、かなりのショックだったと思う。2014年多くの犠牲者を出した御嶽山の水蒸気噴火は、少し前から火山性地震の増加が観測されていたから、予兆はあった。今回の浅間山噴火は、ほとんどまったくといっていいほど予兆はなかった。
つまり火山性地震は増えていなかった。もともとこの1年ほど火山性地震は少なく活動状態は低調だったし、8日の噴火以降も、2015年噴火とそれ以降の高活動期に比べると、かなりおとなしいままである。
そしてまた8月25日午後7時28分ごろ、「ごく小規模な噴火」が発生したと「こうほうかるいざわ」のメールサービスで連絡があった。これも明確な予兆はなかったようだ。
こうなると不安がむくむくと湧き上がってくるのではないだろうか。
「予兆なし」ということで、何かとんでもないことが起きているのではないか、起きそうなのではないか、大噴火が起きるのではないか、予想だにしない天変地異が起きるのではないか、と。
気象庁や地震学者などの専門家は、その不安に対し「それはありません」と断定的には言わない。「たぶん大変なことにはならないだろう」程度だが、確たるデータがなくては下手なことは言えないのが専門家である。そもそも科学万能ではないのだから、火山噴火の機構についてわからないことは多い。
そこで私も自分で調べてみることにした。素人だが仕事柄(翻訳業)火山や自然災害についての文献や論文を何度も読んでいるので、少しはわかるはずだ。
気象庁は今回の噴火を「水蒸気噴火」と判断している。2015年の浅間山の噴火も「水蒸気噴火」だった(降灰にマグマ由来成分が含まれていないので、そう言える)。
では水蒸気噴火はどうして起きるのか。ネットで見られる論文なども読んで、水蒸気噴火について改めて学んでみた。
かいつまんでいうと、「水蒸気噴火」だからマグマの噴出はない。あえて簡単に言えば、地下深くのマグマで地盤が高温になり、その高温体と「水」が接触して、爆発的蒸発を起こす。それが水蒸気噴火(水蒸気爆発)である。
例えば、ハワイ島キラウエア火山噴火ではマグマが地上を流れる。だがそこに雨や水がかかっても、爆発的蒸発は起きない。爆発的蒸発は水や水蒸気が「高圧下」にあることが条件。ただ地下深くの超高圧下だと、高温体と接触しても、押さえ付ける圧力のほうが大きいので爆発的蒸発は起きないという。
だから、水蒸気爆発は、それほど抑え込む力が大きくない、火口から比較的浅いところで起きる。そのため規模としては一般的にマグマ噴火よりは小さいという。
御嶽山やこれまでの浅間山の水蒸気噴火では、とりあえず火山性地震の増加などの変動が事前に起き(予兆があって)、それが引き金となり水(水蒸気)と高温体が接触し、噴火が起きた。
素人考えではあるが、今回のようにマグマが動くなど火山としての変化がなくても、地下に閉じ込められていた水(または水蒸気)と高温体とを隔てていた仕切りが、何らかの物理的要因でたまたま崩れ、両者が接触し、瞬間的に蒸発し爆発が起きる、ということもあるのではないか(当然そう考えている専門家もいるはず)。
例えば気圧の変化とか、大雨とか、中の水蒸気が動いたとか、あるいは単に時間が経過して土塊が崩れる(経年劣化)とか。
そういう噴火は、物理的に考えれば、比較的小規模だろう。だから、もとより火口周辺に近づくことはできない浅間山で今後そうした「予兆なしの水蒸気噴火」があっても、むやみに心配する必要も怖がる必要もないと思う。
だが、もし火口周辺に人がいたら、そんな小規模水蒸気噴火でも生命を脅かす一大事であることは最近の噴火事例からも明らかだ。
さて、そんな素人の私が考えるような現象が、他の火山で起こり得るか。起こり得る、といっても、過言ではないと思う。まあ素人だから、信頼はおけないかもしれないけれど。
個人的には、すべての火山は、火口周辺を立入禁止にしたほうがよいと思う。
霊峰富士。私は富士山を見ながら育った。富士山は遠くから見るものだ、という思いが小さいときからあった。
一度だけ、10歳くらいの頃だったろうか、富士スバルラインで5合目まで連れていってもらったことがある。そのとき感動などはなく、ただただショックだった。道路沿いの森林破壊のひどさ。あの倒木が続く光景は忘れられない。
場所によっては現在も自然破壊は続いているはず。だから世界遺産への登録は「自然遺産」ではなく「文化遺産」しかなかったのだ。
(冠雪した富士山の空撮。写真上側は実際には東南方向である。上側にある窪みは崩壊地である大沢崩れ。その縁に1707年宝永噴火の火口がある。スバルラインは写真下側に見えている。なお富士山が噴火した場合、風向きから火山灰は主に東京方面に向かうと予想されている。)
専門的に言えば、富士山の「予兆なし水蒸気噴火」は可能性としては低いらしい。そもそも巨大な山なので、マグマの熱は火口付近まで届いておらず、圧縮された水があっても高温体との接触は起きそうにない、という分析だ。
でも何が起きるかわからない、想定外の現代。どんな火山でも「予兆なしの水蒸気噴火」を恐れてもいいのではないだろうか。
100以上の火山がある日本列島。火山と生きていくためには、火口まで登るのではなく下から見て敬うほうが、火の神様も喜んでくれると思うが。
読んでいただきありがとうございます。

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