2019年02月01日

ワカンダ王国の衝撃

私はヒーロー物が好きだ。CG技術が進歩したこともあり、このところ「スーパーヒーロー」映画がたくさん作られている。私の最近のお気に入りは、「ブラックパンサー」(2018)だ。

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 (「ブラックパンサー」のポスター。「ブラックパンサー」はマーベルコミックにおける「アベンジャーズ」の一員なので、アイアンマン、キャプテン・アメリカなどと同じ世界に存在していることになっている。)(写真:Wikimedia Commons)

主人公は、アフリカの黒人で、「ワカンダ王国」の王子(で国王になる)。もちろんワカンダ王国は架空の国である。この映画、登場人物は8割が黒人。主人公ブラックパンサー(本名はティ・チャラという)を演じるのは、チャドウィック・ボーズマンという、まあ言ってみれば「ちゃきちゃきのアフリカ系アメリカン」俳優だ。
 
この映画を見て気づいたのは、「皆、なまりのある英語を話している」こと。そのなまりは、アフリカ系の人が英語を話すときのようなアクセントだ。アフリカを意識した、よく考えた演出だ、と思った。
 
主人公もその仲間たちもかっこ良かったし、悪役もなかなか手強く、ハラハラドキドキ、ハッピーエンド、ああ、2時間楽しかった、という私の認識は甘かったのがわかったのは、それから数ヶ月してからだった。
 
まず「ブラックパンサー」がゴールデングローブ賞でドラマ部門作品賞にノミネートされた(受賞は逃した)。さらにアカデミー賞でも、「作品賞」にノミネートされた。いわゆる「SF特撮(今はCG)アクション映画」が作品賞にノミネートされるのは、非常に珍しい。
 
どうしてそこまで評価されているのか、と思っていたら、ネットで偶然ある記事を読み、「ワカンダ王国ではコサ語が使われている」がキーだと知った。
 
コサ語。聞いたことはある。調べたら、南アフリカで話されている現地語の一つで、特徴は、「カッ」という舌打ち音。しゃべっている途中で、どうやるのかわからないが「舌を打つような音」を出すのだ。この音は吸着音と呼ばれ、コイサン語族の特徴でもある。「コサ語」と検索欄に打ち込めば YouTube ですぐコサ語を話す人が出てくる。見ていると興味深く、コサ語の吸着音をちょっと練習してみたくなった。 
 
映画をもう一度よく見たら、確かにコサ語を話しているとき、「カッ」という音がしていた。ブラックパンサー役のボーズマンもそうだ。
  
映画では、登場人物がコサ語を話すシーンはごくわずかだが、それでも「ワカンダ王国」の母語はコサ語で、主人公ブラックパンサーもコサ語が母語、という設定自体が画期的で、それが映像化・音声化されたためさらに衝撃が大きかったということらしい。

これまで黒人のヒーローはたくさんいても、彼らはアフリカの黒人ではなかった。「ブラックパンサー」は、確かにアフリカ人ではある。このマンガが誕生した1966年当時のアメリカでは、それなりに話題にはなったであろう。だが、もともとアメリカンコミックの主人公であり、活躍するのもアメリカ的マンガの世界。またマンガとしてのワカンダ王国ではどんな言葉を話していたのかは、設定されてもいなかった(音のない紙上の物語だから、考えてもいなかっただろうけれど)。
 
ではなぜ、「コサ語」になったかというと、ブラックパンサー(ティ・チャラ)の父親役ティ・チャカを演じたのが南アフリカ人俳優ジョン・カニで、彼の実際の母語がコサ語だった。ブラックパンサーが最初に登場した別の映画「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で、ティ・チャカが息子のティ・チャラと久しぶりにあったとき「英語で挨拶するのはおかしい」とジョン・カニが監督に言ったら、「じゃ何て言うんだ」と言われ、コサ語を使ったという。その時「ワカンダ王国ではコサ語が話されている」という設定になったわけだ。
 
「ワカンダ王国」の衝撃はそれだけではない。
 
コミックの設定では、「かつてアフリカの大地に宇宙からヴィブラニウムという隕石が落ちてきた。その影響で不思議な効力を持つようになったハーブを摂取したアフリカ人が、超人的な力を持つようになり、『ブラックパンサー』を名乗り、人々を救い、統合し『ワカンダ』という国を建てた。
 
ヴィブラニウムを白人に取られると悪用される、という恐れからワカンダは『鎖国』(外から見えなくする技術がある)となり、国内で高度な科学技術を発展させた」ということになっている。
 
つまり、ワカンダ王国は「15世紀ごろから続いていた西洋人によるアフリカの搾取」の対象ではなかったことになる。これが「もしアフリカが白人たちの植民地にならなかったら、どうなっていたか」の一つの解答を示している、のだそうだ。
 
私は到底そこまで読み取れなかった。アメリカやヨーロッパでは、そのあたりが理解されていて、高い評価を受け、その結果、作品自体の出来の良さも含め、アカデミー賞でも作品賞にノミネートされた(作品賞始め7部門でノミネート)のだと思う。
 
ただの「楽しかった」映画ではなかったのだ。
 
男女平等もワカンダでは当然のこと。国王を守る近衛兵たちは女性だし、国王ティ・チャラの妹や元カノも大活躍。見ていて、頼もしい。
 
「コサ語を話し、世界最高の科学技術を持つ平和で公平なアフリカの国、ワカンダ王国」。私も住んでみたい。
 
ワカンダ王国の衝撃は日本人の私にはよくわからなかったが、アフリカの人々およびアフリカにルーツを持つ人々にとって、自分たちのアイデンティティを世界的に認識させた一大事だったわけである。
 
もちろん、こういう映画が作られたからといって、すぐアフリカの国々に良い影響が現れる、というものでもないだろうけれど、意識の上では大きな変化をもたらすことは可能だと思える。
 
約30万年前に生まれた新人類が最初に話した言葉は、コサ語のような舌打ち音を持っていたかもしれない、と言われている。
 
「神よ、アフリカに祝福を(Nkosi sikelel' iAfrika)」*

*(19世紀末に作詞作曲された賛美歌で、アフリカの数カ国で国家として使われている、アフリカ人独立の象徴的な歌となっている。)

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(アフリカのイメージ写真。アフリカだからといって、どこにでもキリンやライオンやゾウなどの野生生物がいるわけではない、とはよく聞く話である)


読んでいただきありがとうございます。

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posted by ロンド at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際
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プロフィール
ブログネームは、ロンド。 2013年に東京の多摩ニュータウンから軽井沢の追分に移住。今年還暦に。 同居人は、妻とトイプードルのリュウ。 ロンドは、フリーの翻訳者(日英)。自宅にてiMac を駆って仕事。 リュウ(13歳)は、運動不足のロンドを散歩に連れ出すことで、健康管理に貢献。 御影用水温水路の風景に惹かれて、「軽井沢に住むなら追分」となった。