2019年09月06日

予兆なし、浅間山噴火


このところずっと静かだったから油断していた。浅間山のことである。

先月、8月7日の夜、「22時08分頃、噴火が発生しました」という緊急メールが軽井沢町から届いた。気象庁の浅間山関連サイトで定期的に火山活動をチェックしていたが、最近は発表もなく、火山性地震も増えていたとは思わなかった。

「浅間山噴火」の速報は全国に流れ、NHKでもテロップが出た。だが、結局「小規模」だったため、報道としては沈静化した。

噴火が起きたのは曇りの夜間。噴火音もなく、軽井沢はちょうどバーベキューシーズンでもあり、屋外にいてテレビやパソコンを見ていなかった人たちは気づきもしなかったようだ。

気象庁のサイトで、浅間山の北側からウェブカメラで撮った、噴火直後の映像を見ることができた。確かにあれが晴天の昼間だったら、浅間山麓住人は、腰を抜かしたかもしれない。

Asama Eruption.jpg
(夜間の噴火だが、高感度カメラなのかはっきり噴煙が見えている。噴火の瞬間は赤熱した光も見えていた。ごくわずかな降灰は北側で観測されている。)
(気象庁鬼押監視カメラの映像より)

「予兆なしの噴火」は、専門家や私を含めた火山に関心のある人たちにとってみれば、かなりのショックだったと思う。2014年多くの犠牲者を出した御嶽山の水蒸気噴火は、少し前から火山性地震の増加が観測されていたから、予兆はあった。今回の浅間山噴火は、ほとんどまったくといっていいほど予兆はなかった。

つまり火山性地震は増えていなかった。もともとこの1年ほど火山性地震は少なく活動状態は低調だったし、8日の噴火以降も、2015年噴火とそれ以降の高活動期に比べると、かなりおとなしいままである。

そしてまた8月25日午後7時28分ごろ、「ごく小規模な噴火」が発生したと「こうほうかるいざわ」のメールサービスで連絡があった。これも明確な予兆はなかったようだ。

こうなると不安がむくむくと湧き上がってくるのではないだろうか。

「予兆なし」ということで、何かとんでもないことが起きているのではないか、起きそうなのではないか、大噴火が起きるのではないか、予想だにしない天変地異が起きるのではないか、と。

気象庁や地震学者などの専門家は、その不安に対し「それはありません」と断定的には言わない。「たぶん大変なことにはならないだろう」程度だが、確たるデータがなくては下手なことは言えないのが専門家である。そもそも科学万能ではないのだから、火山噴火の機構についてわからないことは多い。

そこで私も自分で調べてみることにした。素人だが仕事柄(翻訳業)火山や自然災害についての文献や論文を何度も読んでいるので、少しはわかるはずだ。

気象庁は今回の噴火を「水蒸気噴火」と判断している。2015年の浅間山の噴火も「水蒸気噴火」だった(降灰にマグマ由来成分が含まれていないので、そう言える)。

では水蒸気噴火はどうして起きるのか。ネットで見られる論文なども読んで、水蒸気噴火について改めて学んでみた。

かいつまんでいうと、「水蒸気噴火」だからマグマの噴出はない。あえて簡単に言えば、地下深くのマグマで地盤が高温になり、その高温体と「水」が接触して、爆発的蒸発を起こす。それが水蒸気噴火(水蒸気爆発)である。

例えば、ハワイ島キラウエア火山噴火ではマグマが地上を流れる。だがそこに雨や水がかかっても、爆発的蒸発は起きない。爆発的蒸発は水や水蒸気が「高圧下」にあることが条件。ただ地下深くの超高圧下だと、高温体と接触しても、押さえ付ける圧力のほうが大きいので爆発的蒸発は起きないという。

だから、水蒸気爆発は、それほど抑え込む力が大きくない、火口から比較的浅いところで起きる。そのため規模としては一般的にマグマ噴火よりは小さいという。

御嶽山やこれまでの浅間山の水蒸気噴火では、とりあえず火山性地震の増加などの変動が事前に起き(予兆があって)、それが引き金となり水(水蒸気)と高温体が接触し、噴火が起きた。

素人考えではあるが、今回のようにマグマが動くなど火山としての変化がなくても、地下に閉じ込められていた水(または水蒸気)と高温体とを隔てていた仕切りが、何らかの物理的要因でたまたま崩れ、両者が接触し、瞬間的に蒸発し爆発が起きる、ということもあるのではないか(当然そう考えている専門家もいるはず)。

例えば気圧の変化とか、大雨とか、中の水蒸気が動いたとか、あるいは単に時間が経過して土塊が崩れる(経年劣化)とか。

そういう噴火は、物理的に考えれば、比較的小規模だろう。だから、もとより火口周辺に近づくことはできない浅間山で今後そうした「予兆なしの水蒸気噴火」があっても、むやみに心配する必要も怖がる必要もないと思う。

だが、もし火口周辺に人がいたら、そんな小規模水蒸気噴火でも生命を脅かす一大事であることは最近の噴火事例からも明らかだ。

さて、そんな素人の私が考えるような現象が、他の火山で起こり得るか。起こり得る、といっても、過言ではないと思う。まあ素人だから、信頼はおけないかもしれないけれど。

個人的には、すべての火山は、火口周辺を立入禁止にしたほうがよいと思う。

霊峰富士。私は富士山を見ながら育った。富士山は遠くから見るものだ、という思いが小さいときからあった。

一度だけ、10歳くらいの頃だったろうか、富士スバルラインで5合目まで連れていってもらったことがある。そのとき感動などはなく、ただただショックだった。道路沿いの森林破壊のひどさ。あの倒木が続く光景は忘れられない。

場所によっては現在も自然破壊は続いているはず。だから世界遺産への登録は「自然遺産」ではなく「文化遺産」しかなかったのだ。

Mt. Fuji aerial.jpg
(冠雪した富士山の空撮。写真上側は実際には東南方向である。上側にある窪みは崩壊地である大沢崩れ。その縁に1707年宝永噴火の火口がある。スバルラインは写真下側に見えている。なお富士山が噴火した場合、風向きから火山灰は主に東京方面に向かうと予想されている。)

専門的に言えば、富士山の「予兆なし水蒸気噴火」は可能性としては低いらしい。そもそも巨大な山なので、マグマの熱は火口付近まで届いておらず、圧縮された水があっても高温体との接触は起きそうにない、という分析だ。

でも何が起きるかわからない、想定外の現代。どんな火山でも「予兆なしの水蒸気噴火」を恐れてもいいのではないだろうか。

100以上の火山がある日本列島。火山と生きていくためには、火口まで登るのではなく下から見て敬うほうが、火の神様も喜んでくれると思うが。


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posted by ロンド at 18:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅間山

2018年03月27日

新浅間山ハザードマップの衝撃


ニュース等でご存知の通り、浅間山火山防災協議会が3月23日に大規模噴火を想定した新たなハザードマップを公表しました(自治体毎のハザードマップの発行には、作成に時間がかかるようです)。

天仁噴火(1108)の規模を対象にしているとのこと。火砕流や火砕サージで軽井沢、御代田、小諸、佐久が大被害。群馬県の長野原のほうがさらに被害は大きい。衝撃的です。

天仁噴火規模の噴火は「1000年に一度」(産経ニュース)という文句もニュースタイトルでは出ていました。

私は火山に関して何の教育もないただの素人ですが、個人的にも興味があるし、翻訳の専門分野が土木、砂防、災害なので、それなりに文献を読んでいます。ですからちょっと言わせてください。

現行の「浅間山火山防災マップ」の「噴火警戒レベル」では、4と5になると「天明規模の噴火」が予想される、とあり、「浅間山融雪型火山泥流マップ」では、噴火警戒レベル4と5では「天仁天明クラスの噴火」が予想される、とあります。後者では1958年の噴火規模における「融雪型火山泥流」のシミュレーション図が掲載され、泥流で被害を受けると予想される場所が具体的にわかるようになっています。

lava_flow.jpeg
(抜粋。噴火が雪が積もっている冬に起きたら、という最悪のパターンを想定したもの。つまり噴火の熱で雪が溶け、洪水が起きる、ということ)

私もこれを見て、今の場所を選んでいます(つまり川からは離れている場所)。

新しい浅間山ハザードマップでは天仁噴火規模の噴火を予想し、溶岩流や降灰の予想被害範囲を記しているとのこと(大規模噴火バージョンとしてのようです)。

一町民として知りたいのは、天仁噴火の想定において、どう対処すべきか、です。その場合「引っ越す」ことしかありません。何しろ我が家は軽井沢の大地に刻まれた12世紀の面影に書いたように、天仁噴火の追分火砕流の上に建っているのですから。その名残が追分キャベツです。

浅間山噴火被害の「想定」において今、専門家たちが「天仁噴火」のシミュレーションを浅間山ハザードマップに載せる理由は何なのでしょうか。

(1) 将来の可能性として最悪と考えられる噴火被害の状況を市民に知らせる。
(2) 実際に起こる可能性がある災害として、市民に準備してもらう。
(3) 可能性としてはあるので、今警告しておけば、実際起きた時に「なぜ知らせてくれなかったのか」とは非難されない。

公式的には(1)でしょう。歴史としては知っていた12世紀の天仁噴火が、もし今起きたらどんな災害が出るのか、明確に示すわけです(降灰量など)。現実味があるので「そんなにひどかったのか」ということがわかるのだと思います。噴火災害の怖さを理解してもらうためには、有効でしょう。

しかし気持ちとしては、御嶽山や草津白根山の突破的水蒸気噴火があったので、浅間山も事前に警告しておけば、予測できなくても不作為を非難されることはない、という(3)もあると思います。専門家と言っても、相手は自然。科学は万能ではないのですから。

具体的にどうしろ、という意味の(2)だったら、被害想定地域の人は早速引っ越すしかありません。大規模噴火は事前にわかるので、逃げる余裕はあると思いますけれど。実際に天仁規模の噴火が起きたら、佐久地方は壊滅です。軽井沢のリゾートも消えるでしょう(噴出する方向によっては、火砕流で埋まるのですから)。

さて、現実的に言えば、確率はとても低いと思います。専門家に聞いても「可能性はありますが、今その徴候はありません」という答えになるでしょう。

しかし、ニュースのタイトルで使われるような「1000年に一度の噴火(の確率)」のような表現は誤解を与えます。地震と違って、噴火は特定の周期で起きるわけではないからです。

専門家も本当に周期的に噴火しているような火山をのぞき、一般的に「過去の事例からいえば、千年に一度はそういう噴火が起きている、と言える」のような言い方をするはずです。それは平均すると、であり、周期的に起きる、ではないのです。

天仁噴火は800年ほど前で、「1000年に一度」と言えないことはありませんが、天明噴火は200年ほど前です。天仁から天明は約700年。どうしても「周期」が気になるのであれば、次はあと400〜500年ほど先でしょう。実際に天明噴火で大量のマグマが噴出されたので、今の浅間山にそれほどマグマは溜まっていないはずです。

そもそもマグマがなければ、噴火は起きません。

それに火山は「死ぬ」ことだってあります。八ヶ岳はかつて全山が活火山。甲府盆地を火砕流で埋めたのですが、今は一つの岳だけが活火山と指定されているだけ(それも、えっ火山だったの?と思うくらいですが)。浅間山だって離山はもうちょっとで大噴火するところだったけれど、「火山ドーム」で終わってしまい、大地をあそこまで盛り上げたマグマはもう地下にはありません。

浅間山は21世紀になって何度か小噴火を起こしています。20世紀はもうちょっと規模の大きい噴火が頻発していました。昭和時代には死者も出ています(1947)。

それから比べると、今はとても静かです。比べものにならないくらい、静か。

観測体制も整っておりデータの蓄積も豊富。だから、このところ火山性地震や火山性微動が非常に増えているにもかかわらず(3年前のプチ噴火に近い程度の活発度だった!)、マグマの動きに大きな異常がないので、専門家はあまり慌てていないようです。

これからどんどん活発化して、遠い将来、本当に天仁や天明級の噴火が起こるかもしれませんが、逆にどんどん沈静化してしまうことだってあります。

IMG_1755.jpg
(ボクはいつも浅間山のツマだけど、怖くなんかないよ)

でも自然相手ですから、どうなるかわかりませんが、そのときはご容赦くださいね。まあでも私自身は生きて浅間山のマグマが山腹を流れ下るのを見るとは思いません、たとえ100歳まで生きたとしても。


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posted by ロンド at 17:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅間山

2017年04月12日

浅間山、燃え

浅間山の噴煙、このところ空高く噴き上がっていました。その姿は神々しい(被害がない限り)。

Mt Asama2.jpg

噴煙放出量が増え始めたのは、昨年12月中旬以降。

それまで日平均500トン以内だった二酸化硫黄が、突然1000トン以上に増加。自衛隊の測定では、最大日平均放出量3600トンを1月18日に記録。

2月6日に用事で中軽に行ったとき、硫黄臭かったのですが、あれは噴煙による硫黄臭だったのでしょうか・・・。

4月6日は1500トン、やっとこのところ収まってきたように見えます。この数日雨や雪で山頂は見えませんでした。久しぶりに晴れた今日は、噴煙が風にたなびいていました。

火山性地震は2月と3月が一番多かったです。2月は日平均約63回、3月は約59回。(4月10日の発表値では、9日はわずか10回。)
火山性微動は2月と3月それぞれ2回。

火山性地震は火山体およびその周辺で起きる、何らかの破壊現象により生じる地震。
火山性微動は、マグマやガスなどの移動や震動で生じる地震。
一般的に微動のほうがより噴火現象に関係があると言われています。

幸い、2年前2015年6月のプチ噴火のときより、地震、微動、噴煙量ともに少ないです。

2004年9月に浅間山が噴火したときの降灰は、当時の我が家(多摩ニュータウン)にも届いていました。

AsamaAsh.jpg

最後に、3分間の空の旅を楽しんでください。国交省の許可を得てドローンにて撮影されたという浅間山の火口です。

う〜ん、浅間山は燃えていますね。

ついでにテレビドラマにも煙を吐く浅間山が。

Quartet_Asama.jpg
(ドラマ「カルテット」の一コマ)

「いつもいつも浅間山のツマにしないでほしい」って?
Liu_Asama_tsuma.jpg



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posted by ロンド at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅間山
プロフィール
ブログネームは、ロンド。フリーの翻訳者(日英)。自宅にてiMac を駆って仕事。 2013年に東京の多摩ニュータウンから軽井沢の追分に移住。 同居人は、妻とトイプードルのリュウ。 リュウは、運動不足のロンドを散歩に連れ出すことで、健康管理に貢献。 御影用水温水路の風景に惹かれて、「軽井沢に住むなら追分」となった。